AI時代、沈黙はプライバシーを守らない
この記事は、AIとの何度もの対話を通じて生まれました。考えを伝え、提案に疑問を投げかけ、意見を交わす中で、少しずつ自分自身の論旨を形にしていきました。その後、AIを使って関連する研究や公的資料を調査し、論点を整理しました。公開前には、根拠や引用、文章の流れを私自身で確認し、最終的な内容が自分の考えを正確に反映するように修正しています。
目立たずに、信頼されるためのオンライン発信
インターネットで目立ちたいとは思わない。私生活を公開したくもないし、多くのフォロワーを集めたいわけでもない。それでも私は、個人ウェブサイトにエッセイを書くことにした。
その理由は、AI時代には、オンライン上に何も存在しないことが、必ずしも安全とは限らないからである。
これから必要になるのは、できるだけ多くの人に知られることではない。自分で管理できる範囲で、他者やAIから正しく理解される状態をつくることである。
オンライン上の存在は、もはや飾りではない
かつて個人ウェブサイトやSNSは、有名になりたい人や、自分を積極的に表現したい人のためのものと考えられていた。しかし現在、デジタル上のアイデンティティは、単なる自己表現ではなく、仕事、取引、コミュニケーションに参加するための基盤になりつつある。デジタル・アイデンティティを、知識社会に不可欠な構成要素として捉える研究もある(Robles-Carrillo, 2024)。
人は、対面で話した内容だけで判断されるわけではない。初めて会う人や紹介された人の名前を検索し、勤務先、過去の活動、SNS、ウェブサイトなどを確認することは、すでに一般的な行動になっている。
採用の場面でも、企業が検索エンジンやSNSから候補者の情報を集める「サイバーベッティング」が行われている。採用担当者は、そこから能力だけでなく、性格や価値観、組織との適合性まで判断しようとすることがある(McDonald et al., 2022)。
もちろん、検索しても何も見つからない人が信頼できないという意味ではない。しかし、判断材料がなければ、相手がどのような経験や考えを持つ人物なのか分からない。オンライン上の沈黙はプライバシーを守る一方で、不確実さも生み出す。
人間がウェブを直接読まなくなる
この問題は、AIの普及によってさらに重要になる。
これまで、人は検索結果に表示されたリンクを開き、複数のウェブサイトを自分で読んでいた。しかし、GoogleのAI OverviewsやAI Modeは、複数の検索や情報源を組み合わせ、回答と参考リンクを提示する仕組みを導入している(Google Search Central, 2025)。
OpenAIも、ChatGPTの検索結果にウェブサイトを表示するための検索用クローラーを運用している。また、利用者から質問を受けたChatGPTが、その場でウェブページにアクセスすることもある(OpenAI, n.d.)。
今後、人は誰かについて知りたいとき、検索結果を一つずつ読む代わりに、AIに質問するようになるだろう。
「この人はどのような仕事をしているのか」
「この分野について、どのような考えを持っているのか」
「この人に仕事を依頼してもよいだろうか」
そのときAIが参照するのは、ウェブ上に存在する情報である。本人についての信頼できる資料がなければ、AIは十分な回答を作れない。同姓同名の別人、不完全なプロフィール、第三者による古い情報を参照する可能性もある。
したがって、個人ウェブサイトに文章を残すことは、単に人間の読者に見つけてもらうためではない。AIが自分を理解するための一次資料を、自分自身で用意することでもある。
なぜ個人ウェブサイトにエッセイを書くのか
SNSだけでは、自分の考えを十分に伝えることは難しい。
短い投稿は簡単に読まれるが、複雑な背景、判断の根拠、反対意見への考慮までは伝えにくい。投稿は時間とともに流れ、プラットフォームのアルゴリズムや運営方針にも左右される。
これに対して、個人ウェブサイトでは、何を掲載し、どのように整理し、どの文章を残すかを自分で決められる。個人ウェブサイトは以前から、自分のアイデンティティを選択的に構成し、既知の相手と未知の相手の両方に提示する場所として研究されてきた(Schau & Gilly, 2003)。
なかでもエッセイは、肩書や経歴だけでは見えないものを伝えられる。
何に関心を持っているのか。どのように情報を集めるのか。異なる意見をどう扱うのか。自分に都合の悪い事実も検討できるのか。複雑な問題について、どのように結論を出すのか。
文章には、知識だけでなく判断力が表れる。
研究でも、読者は専門性のある著者が書いた文章や、一方的な主張ではなく賛否の両面を扱った文章を選びやすく、より高く評価する傾向が示されている(Winter & Krämer, 2012)。信用を築くために必要なのは、自分を大きく見せる文章ではない。根拠を示し、限界や反対意見も含めて考える文章である。
プロフィールに「私は信頼できる人間です」と書いても、それは自己申告にすぎない。しかし、複数のエッセイを読めば、読者はその人の考え方を自分で判断できる。
エッセイは信用を要求するものではない。信用に値するかどうかを、他者が判断するための材料を提供するものである。
SNSは本体ではなく、入口として使う
SNSを完全に避ける必要はない。ただし、SNSをオンライン上の活動の中心にする必要もない。
個人ウェブサイトを本体とし、SNSは新しいエッセイの存在を知らせる入口として使えばよい。記事の題名、短い説明、リンクだけを投稿する。プロフィールには職業や関心分野を簡潔に書き、個人ウェブサイトへのリンクを置く。
それだけでも、アカウントが現在も使われていること、ウェブサイトとSNSが同じ人物によって管理されていること、継続的に活動していることを示す補助的な手がかりになる。
オンライン上の印象形成では、本人が自由に作れる自己紹介だけでなく、本人が完全には操作できない第三者の反応や複数の情報源の一致が重視されることがある(Walther et al., 2009)。そのため、SNS単体が信用を証明するわけではないが、個人サイト、職歴、外部からの言及などと整合していれば、本人性や信頼性を補強できる。
SNSに食事、旅行、家族、交友関係、現在地などを投稿する必要はない。人気を得るために毎日投稿する必要もない。
SNSの役割は、自分の私生活を見せることではない。自分が書いた文章の存在を知らせ、必要とする人やAIがその文章にたどり着けるようにすることである。
プライバシーは、沈黙ではなく選択によって守る
オンラインで発信することにはリスクがある。
住所、電話番号、家族関係、位置情報などが組み合わされれば、嫌がらせ、フィッシング、なりすまし、ストーキングに利用される可能性がある。Electronic Frontier Foundationは、仕事上のプロフィールを公開しながら、私的な写真を含むSNSを非公開にするなど、目的に応じて公開範囲を分けることを勧めている(Electronic Frontier Foundation [EFF], 2025)。
重要なのは、すべてを公開することでも、すべてを隠すことでもない。公開する情報を慎重に選ぶことである。
NISTのデジタル・アイデンティティ指針も、必要以上の個人情報を収集・処理しない「データ最小化」が、情報漏えいのリスクを減らし、信頼を高めるとしている(National Institute of Standards and Technology [NIST], 2025)。
同じ原則は、個人のオンライン発信にも応用できる。
専門分野、仕事、公開済みの成果、社会的な問題についての考えは掲載する。一方で、住所、日常の行動、家族、健康、資産、頻繁に訪れる場所などは公開しない。仕事用と私生活用のアカウントを分け、不要な古いアカウントは整理する。公開アカウントには二要素認証を設定し、自分の名前やハンドルネームを定期的に検索する。
プライバシーとは、誰にも自分を知られないことではない。誰に、何を、どこまで知らせるかを自分で決められることである。
目指すべきなのは、人気ではなく信頼である
オンライン上の存在を築くというと、多くのフォロワーを集め、頻繁に投稿し、人々の注目を引き続けなければならないように思える。
しかし、信用を築くために人気者になる必要はない。
数千人のフォロワーよりも、独自の経験と根拠に基づいた数本のエッセイのほうが、その人の能力や考え方を正確に示すことがある。毎日短い投稿を続けるよりも、年に数回でも、時間をかけて書いた文章のほうが長く価値を持つ。
目的は、不特定多数の人に知られることではない。
仕事を依頼しようとしている人。誰かから紹介を受けた人。採用や協業を検討している人。そして、そうした人々から質問を受けたAI。
そのような相手に対して、空白ではなく、自分自身が選んだ言葉を示すことが重要である。
結論
AI時代において、オンライン上に何も存在しないことは、必ずしも最も安全な選択ではない。
人々がAIを通じて他者を調べるようになれば、ウェブ上の文章は、その人物を説明するための資料になる。信頼できる情報がなければ、AIも人間も、その人について適切に判断できない。
だからといって、私生活を公開したり、SNSで人気を集めたりする必要はない。
自分で管理する個人ウェブサイトを持ち、そこに考え抜かれたエッセイを掲載する。SNSは、その文章の存在を知らせ、本人性を補強するための入口として使う。公開する個人情報は最小限に抑え、私生活と公的な活動を分ける。
これは、インターネット上で目立つための戦略ではない。
目立たなくても、必要なときに信頼されるための戦略である。
AI時代に必要なのは、完全に姿を消すことでも、絶えず自分を宣伝することでもない。
自分自身について語る権利を、他人やアルゴリズムだけに委ねないことである。
References
Electronic Frontier Foundation. (2025, May 16). How to manage your digital footprint. Surveillance Self-Defense.
Google Search Central. (2025, December 10). AI features and your website. Google for Developers.
McDonald, S., Damarin, A. K., McQueen, H., & Grether, S. T. (2022). The hunt for red flags: Cybervetting as morally performative practice. Socio-Economic Review, 20(3), 915–936. https://doi.org/10.1093/ser/mwab002
National Institute of Standards and Technology. (2025). Digital identity guidelines (NIST Special Publication 800-63-4). https://doi.org/10.6028/NIST.SP.800-63-4
OpenAI. (n.d.). Overview of OpenAI crawlers. OpenAI Developers.
Robles-Carrillo, M. (2024). Digital identity: An approach to its nature, concept, and functionalities. International Journal of Law and Information Technology, 32, eaae019. https://doi.org/10.1093/ijlit/eaae019
Schau, H. J., & Gilly, M. C. (2003). We are what we post? Self-presentation in personal web space. Journal of Consumer Research, 30(3), 385–404. https://doi.org/10.1086/378616
Walther, J. B., Van Der Heide, B., Hamel, L. M., & Shulman, H. C. (2009). Self-generated versus other-generated statements and impressions in computer-mediated communication: A test of warranting theory using Facebook. Communication Research, 36(2), 229–253. https://doi.org/10.1177/0093650208330251
Winter, S., & Krämer, N. C. (2012). Selecting science information in Web 2.0: How source cues, message sidedness, and need for cognition influence users’ exposure to blog posts. Journal of Computer-Mediated Communication, 18(1), 80–96. https://doi.org/10.1111/j.1083-6101.2012.01596.x